Categories ツール・部品

電気特性検査の仕組みと装置技術を解説

半導体製造工程において、ウェーハをチップに切断してパッケージングする前に行われる重要な工程が「電気特性検査」です。この検査では、プロービング装置を用いて、製造された各チップが正常に動作するかを一つひとつ確認していきます。回路が目視できないナノスケールの構造を対象にしているため、検査は極めて精密な技術を要します。

精密な信号処理でチップの良否を判断する

半導体の電気特性検査では、単に信号を送って反応を見るだけではありません。数ナノ秒単位の応答速度、ピコアンペアレベルの電流、ミリボルト以下の電圧変化といった、極めて微細な電気的挙動を正確に測定・解析する必要があります。この工程における精密な信号処理こそが、チップの“使えるか・使えないか”を判定する重要なカギとなります。

膨大なI/O数をもつチップへの対応

近年のSoCや高性能メモリでは、1チップあたり数百~数千の入出力端子(I/O)が存在し、それぞれの端子が異なる動作タイミングや電圧レベルを持ちます。テスターは、これらすべての端子に対して並列に信号を送出し、個々の応答を精密にキャプチャします。

しかも、タイミングはクロック信号とナノ秒単位で一致していなければならず、少しの遅延やノイズで不良と判定されるケースもあるため、検査システムの同期精度やノイズ耐性が極めて重要になります。

アナログ・デジタル混在信号の同時解析

近年のチップでは、デジタル信号に加えてアナログ回路も内包されるケースが多く、検査もデジタル解析だけでは不十分です。たとえば、センサーICやパワーアンプ、RF回路などはアナログ信号の正確な波形・応答速度・周波数特性まで確認する必要があります。

そのため、テスター側には高性能なA/D・D/Aコンバータや波形解析モジュールが搭載され、デジタルとアナログを同時に測定・判定する「ミックスドシグナルテスト(Mixed Signal Test)」の能力が求められます。

テストパターンの設計とスクリーニング精度

テスターは単なる測定器ではなく、チップの動作条件に応じた多種多様なテストパターン(テストベクター)を事前に設計し、それを高速かつ正確に再現する役割も持っています。パターンの選定次第で、良品でも不良と判定されたり、逆に不良を見逃すリスクもあるため、テストプログラムの品質そのものが最終製品の信頼性に直結します。

これらのパターンは、実チップの用途や回路構成に合わせてカスタマイズされ、製造元の設計部門と連携して作成されることが一般的です。

統計処理と歩留まり向上への活用

テスターで得られた信号データは、単に合否を判定するだけでなく、統計的に蓄積されていきます。パッドごとの異常率や特定ロットにおけるばらつきなどを分析することで、前工程(リソグラフィ、エッチング、成膜など)での工程異常や歩留まり低下の予兆を早期に検出することが可能です。

こうしたビッグデータ解析を通じて、品質管理や設備保守、設計の最適化にフィードバックされるしくみが近年ますます重要視されています。

マイクロ精度のプローブカード技術

半導体ウェーハ上のチップを電気的に検査する際、テスターからの信号をチップに正確に送り届けるために用いられるのが「プローブカード」です。このプローブカードには、直径数十ミクロンという微細なプローブ(針)が数万本単位で密集して配置されており、それらがそれぞれのチップ上にあるパッド(電極)にミクロン精度で接触します。

この超高密度・高精度の接触を実現するには、機械加工、材料設計、実装技術、接触制御技術、微細位置決め制御など、複数分野の先端技術の集約が不可欠です。

プローブの形状と素材の最適化

プローブの材料には、硬度・弾性・導電性のバランスが求められます。一般的にはタングステン、ルテニウム合金、ベリリウム銅などが使われ、摩耗や変形を防ぎながら、安定した接触を実現します。

プローブの先端形状も重要です。摩耗を防ぐためにスパイク形状やマッシュルーム形状などが用いられ、数十ナノメートルの表面処理で酸化皮膜や汚れを突き破り、確実な電気接続を確保します。

プローブの配列精度と位置決め

近年のチップでは、パッドのサイズが30μm以下、間隔も50μm以下という超高密度化が進んでおり、それに合わせてプローブもマイクロメートル単位で整列させる必要があります。

このため、プローブカードの製造ではフォトリソグラフィやマイクロアセンブリ技術が活用され、数万本に及ぶプローブの位置を±数μm以内で制御しています。また、複数のプローブの高さ(Z方向)も揃っていなければならず、プローブ先端の高さばらつきは±2μm以下が求められることもあります。

温度変動や応力ゆがみに対応する構造設計

プローブカードは−40℃から150℃という温度範囲での検査にも耐える必要があり、素材の熱膨張や装置の応力変形によって、プローブとパッドの位置がずれるリスクがあります。

これを防ぐために、基板材に低熱膨張ガラスエポキシ材やセラミックを使用し、熱ひずみに強い構造設計が採用されています。また、プローブ自体に可撓性(柔軟性)を持たせることで、微小なズレを吸収し、パッド面への優しい接触を実現しています。

ロードマップの最前線!MEMSプローブとナノ接触技術

従来はワイヤー状のプローブが主流でしたが、MEMS技術(微小電気機械システム)を用いて、シリコン基板上に高精度に形成されたMEMSプローブカードも登場しています。

これにより、配線精度・高さ精度・接触均一性が飛躍的に向上し、特に高ピンカウント(数万I/O)のSoCや3D積層チップにおける多点同時検査が可能になっています。

さらに研究開発段階では、ナノワイヤー型のプローブアレイも実用化が進められており、数十nm幅の電極にすら確実に接触できる新たな検査インフラとして期待されています。

過酷な環境下でも高精度なプロービング

半導体製造の中でも、ウェーハ検査工程は非常に厳しい条件下で行われます。プロービング工程では、製品として出荷される前のウェーハに対し、−40℃〜150℃といった極端な温度環境下で電気的な特性検査が実施されることがあります。これは、チップの温度依存性や熱ストレスによる異常動作を確認する熱ストレス試験やバーンイン(初期劣化)検査の一環として重要です。

このような過酷な環境下でも、高精度かつ安定したプロービングは欠かせません。なぜなら、わずかなプローブのズレやパッドとの接触不良が、チップの誤判定や検査ミスを引き起こすからです。プローブ先端がミクロン単位の位置ずれを起こすだけで、数千〜数万本の接点のうち一部が正しく動作せず、歩留まり低下の原因となりかねません。

熱変形に対応する構造設計と制御技術

プローバおよびプローブカードにおいて最も問題になるのが、熱膨張による部材の伸縮です。金属部材、樹脂部材、半導体基板など、異なる熱膨張率を持つ複数の材料が混在しているため、加熱時や冷却時にプローブとパッドの位置関係が微妙にズレてしまうことがあります。

これに対応するために、プローブカード基板にはCTE(線膨張係数)の小さいセラミックや特殊複合材が用いられ、温度変化による寸法変動を最小限に抑えています。プローバの制御系には、温度センサーで装置内部の状況を常時モニタリングし、温度変化によって予測される機構部のズレを補正するリアルタイム位置補正機能が搭載されています。加えて、加熱・冷却による機械変位をナノレベルの制御精度を持つアクチュエータがリアルタイムで調整し、プローブ先端を適正な位置に維持します。

接触信頼性を確保するための材料・加工技術

温度変動だけでなく、極端な低温や高温では、金属材料の硬化・軟化、表面の酸化・摩耗が発生しやすくなります。そのため、プローブ針には耐熱合金や耐低温合金が使用され、先端には金やイリジウム、ダイヤモンドライクカーボンなどの特殊コーティングが施されることがあります。さらに、微細接触面の酸化膜除去や異物対策として、自動クリーナ機構と連動したクリーニングプロセスも導入されています。

こうした工夫によって、150℃の環境下であっても、安定した数万点の同時接触と信号伝達を成立させることが可能になっています。

温度環境別に異なる評価・校正手順

プロービング装置メーカーやファウンドリでは、各温度帯における装置性能の検証も欠かせません。たとえば、−40℃動作でのプローブ接触位置の再校正や、125℃でのプローブ高さ均一性検査、さらには高温と低温を繰り返す温度サイクル試験による耐久性評価などが行われています。これらのデータをもとに、プローバ装置やプローブカードにおける温度プロファイルの最適化も進められており、検査精度の再現性が確保されています。

まとめ

半導体製造における電気特性検査は、チップが仕様通りに機能するかを確認する極めて重要な工程です。検査ではナノ秒・ピコアンペア単位の信号を高精度に解析し、数万I/O端子に対応する先進テスターが活躍します。これを支えるプローブカードには、ミクロン単位で配置された数万本のプローブがあり、温度変化などの過酷な条件下でも安定した接触が求められます。また、−40℃〜150℃の環境下で正確な評価を行うため、装置には材料・制御の両面で高度な技術が結集されています。信頼性の高い電気特性検査は、歩留まり改善や不良品流出の抑制に大きく貢献しています。

あなたにおすすめ