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露光装置のしくみと進化を解説

半導体製造の要ともいえる工程に、「露光」があります。これは、あらかじめ塗布したフォトレジストに、回路パターンを光で転写するプロセスです。露光工程で使用される露光装置には、微細化が進む半導体設計に応えるべく、さまざまな光学技術が取り入れられています。この記事では、主に使用されるステッパ、スキャナー、液浸露光装置の特徴としくみについて解説します。

縮小して投影する露光の基本構造

露光装置の心臓部ともいえるのが、縮小投影露光という仕組みです。これは、フォトマスクに描かれた回路パターンを、特殊なレンズを使って縮小し、シリコンウェーハ上に焼き付けるというプロセスです。なぜ縮小が必要かというと、マスク上のパターンは、実際に形成されるトランジスタや配線よりも大きく描かれており、高精度の光学システムを用いて縮小転写することで、極めて微細な構造を実現できるからです。

ステッパの構造と露光方式

ステッパ(Stepper)は、レーザーなどの光源から発せられる紫外線を、まずフォトマスクに照射し、次に縮小光学系(縮小率は一般に4分の1や5分の1)を通して、1チップ分の回路パターンをウェーハ上に投影する装置です。

特徴的なのは、「ステップ・アンド・リピート方式」と呼ばれる露光方法です。ウェーハ上にひとつの領域が露光されるたびに、ステージ(ウェーハを載せる台)が正確に位置を移動し、次の領域に照射を行います。この方式は非常に高精度な位置決め制御が要求され、ステージ制御技術と振動抑制技術が品質の決め手になります。

また、解像度や焦点深度(DOF)を高めるために、回折限界に近づいたパターンにも対応できる多層レンズや反射防止構造が採用されています。さらに、露光前後にアライメント(位置合わせ)処理を行うことで、ミクロン単位の精度で重ね合わせが可能です。

スキャナーの構造と進化

スキャナー(Scanner)は、ステッパに比べて一度の露光で広範囲を照射できる点が大きな特長です。露光の方式は「ステップ・アンド・スキャン」と呼ばれ、マスクとウェーハの双方を同時に動かしながら、スリット状の露光エリアにパターンを連続的に転写します。

このスキャン方式により、ステッパよりも大きな回路サイズやより多くのチップを一括で露光でき、生産性が向上します。さらに、マスクやウェーハを同時に動かすため、光学系への負荷を分散でき、像の均一性が高まるというメリットもあります。

現代のリソグラフィ装置では、このスキャナー方式が主流になっており、とくにArFエキシマレーザー(波長193nm)を光源とする装置は、最先端ロジック半導体やDRAMなどで広く採用されています。

なぜ縮小投影が必要なの?

半導体の微細化が進むにつれて、数十nm以下のパターンを形成する必要があります。実寸大で描かれた回路をそのまま投影するのでは、マスク製作時の精度や再現性、露光系の誤差が大きな問題になります。縮小投影を採用することで、マスク図案の許容誤差を拡大し、かつ露光時の光学的な解像性能を最適化できるという利点があります。

加えて、縮小比率が大きいほど、光学系による収差(歪み)の影響も相対的に小さくなり、量産時のパターン精度が飛躍的に高まります。

液体の屈折率を利用してさらに微細に

従来の光リソグラフィ技術では、回路パターンの微細化にあたり「光の波長」と「レンズの開口数(NA)」という2つのパラメータが解像度を制約していました。解像度(R)は、一般的に以下の式で示されます。

R = k₁ × λ / NA
※k₁:プロセス定数、λ:光源の波長、NA:開口数

波長を短くすることとNA(Numerical Aperture)を大きくすることは、解像度を高めるための基本戦略ですが、NAには物理的な上限があります。空気中の屈折率はおおよそ「1.0」なので、理論的にNAは「1.0」までしか達成できません。ここで突破口となったのが「液浸露光技術(immersion lithography)」です。

屈折率の高い液体でNA>1.0を実現

液浸露光では、フォトレジストとレンズの間の空間に「純水」を充填します。純水の屈折率は約1.44。これにより光は水中で屈折し、結果的にNAを1.35前後まで高めることが可能になります。これは空気中では実現不可能だった領域であり、既存のArFエキシマレーザー(波長193nm)光源を使いながらも、従来より高い解像度を得ることができました。

この技術革新により、65nm、45nm、32nm世代といった先端ノードの量産が可能になり、最先端ロジックやDRAMの大量生産を大きく後押ししたのです。

液浸露光の課題と対応技術

液浸露光では、ただ水を満たすだけではなく、純水の供給・循環・温度制御・気泡除去など、極めて高度な液体管理技術が必要です。もし水中に気泡や微粒子が混入すれば、露光パターンの欠陥となり歩留まりが低下します。

また、レンズ表面に対する撥水コーティングや、レジスト材料が水と反応しないようにする表面処理も求められます。さらに、レチクル(フォトマスク)の水濡れやコンタミ対策として、マスクブランクスやパージガスの工夫も導入されました。

特にナノレベルでの揺らぎが許されない微細工程では、水の表面張力や動的粘性がレンズとウェーハの間の流体制御に影響を与えるため、ナノ流体力学的な設計思想が導入されています。

EUVへの橋渡し技術としての意義

液浸露光は、波長を短くするという物理的限界の克服ではなく、屈折率の拡張という「光の進み方」を変える発想で生まれた技術です。このアプローチは、EUV(極端紫外線)への技術的ステップとしても重要な役割を果たしました。

現在、EUVリソグラフィ(波長13.5nm)は反射ミラーを用いた全反射系で構成されており、液浸とは異なる物理設計ですが、「光の制御と極限の解像度」という課題は共通です。液浸露光で培われた露光面の安定化技術・材料選定・露光制御といったノウハウは、EUV装置設計にも活かされているのです。

まとめ

露光装置は、半導体製造において微細な回路形成を担う重要な技術です。ステッパやスキャナーといった投影方式による精密な転写技術に加え、液浸技術によってさらなる微細化が可能になっています。これらの進化は、現代の高性能な半導体チップを支える不可欠な要素となっており、今後も露光技術の革新が、半導体製造の限界をさらに押し広げていくことが期待されています。

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