半導体デバイスの構造は、原子レベルの薄膜を形成し、それを高精度で削り取るという一連の工程によって作り上げられています。その中核を担うのが「成膜」と「エッチング」です。これらは単なる前処理・後処理の関係にとどまらず、使用される装置、プロセス条件、材料の組み合わせによって、最終的なデバイスの性能・歩留まりを大きく左右します。
本稿では、成膜装置とエッチング装置の種類や特徴、選定の背景、工程全体における役割について掘り下げ、微細化が進む現代の半導体製造における装置技術の本質に迫ります。
薄膜形成とパターン加工は半導体製造の要
半導体製造プロセスの中核をなす工程の一つが、「薄膜形成」と「薄膜除去」による回路パターンの形成です。前者は成膜装置を用いて絶縁膜や導電膜などの材料をウェーハ上に形成する工程であり、後者はリソグラフィーで転写されたパターンに従って膜を削り取る、いわゆるエッチング工程です。
これらの装置とプロセスは、使用される材料や目的とする構造によって多様に使い分けられており、各製造ラインにおける微細化技術やプロセス制御の精度を大きく左右します。本稿では、成膜とエッチングそれぞれの装置技術と、工程ごとの特徴について解説します。
材料と膜質で使い分ける成膜装置の種類
成膜装置には、用途や膜の種類によって複数の方式が存在します。代表的なものとして、熱酸化法、CVD(化学気相成長)、ALD(原子層堆積)、スパッタリングの4種類が挙げられます。
熱酸化法では、ウェーハを高温の炉内に設置し、酸素または水蒸気を供給してシリコン表面を酸化します。これにより、均一かつ高品質な酸化膜を形成できるため、ゲート酸化膜などの用途で広く使用されています。
CVD法には常圧CVDと減圧CVDがあります。常圧CVDはその名の通り大気圧下で反応を進めるため、処理速度に優れる一方で膜質の制御には限界があります。一方、減圧CVDは真空中で成膜を行うため、より高精度な酸化膜や窒化膜を得ることができます。デバイスの要求が高度化する中で、後者の利用が主流になりつつあります。
ALD(Atomic Layer Deposition)はCVDの一種でありながら、反応を逐次的かつ分子レベルで制御することによって、原子層単位で膜厚や組成の制御が可能です。近年では3D構造や高アスペクト比領域の成膜でその活用が急速に広がっています。
スパッタリングは金属材料の成膜に用いられる手法で、真空中でターゲット材料にイオンを衝突させ、原子を飛ばしてウェーハ上に堆積させる方式です。アルミニウムやタングステンなどの金属膜を成膜する際に用いられ、他の手法では難しい均一な金属層形成が可能です。
エッチング装置は9割以上がドライ方式に
成膜によって形成された膜は、リソグラフィー工程で転写されたパターンに従って選択的に除去される必要があります。この工程がエッチングであり、一般的にはウェットエッチングとドライエッチングの2方式に分類されます。
ウェットエッチングは、酸やアルカリなどの溶液によって化学的に膜を溶解除去する方法で、工程がシンプルで装置コストも低く抑えられますが、微細なパターン再現性に課題があるため、近年の微細化ニーズには対応が難しい場面もあります。
一方、ドライエッチングは高真空中で生成したプラズマを利用して薄膜を化学的または物理的に除去する方法であり、精密なパターン制御に優れるため、現在の量産ラインではエッチング工程の9割以上でドライ方式が採用されています。プラズマ中の活性種がフォトレジストで覆われていない領域に選択的に反応し、回路パターンの高い解像度と縦方向のアスペクト比を確保できます。
レジスト除去まで含めてエッチング工程は完結する
エッチングによって不要な薄膜が除去され、目的の回路パターンが形成された後には、フォトレジストそのものも除去される必要があります。これは「レジスト剥離」または「アッシング」と呼ばれる工程で行われます。
アッシングでは、酸素プラズマなどを用いてレジスト成分を化学的にガス化させ、ウェーハ表面から揮発的に除去します。この工程は、物理的な洗浄では対応できない微細残渣や高密着レジストにも対応可能であり、次工程への影響を最小限に抑える重要な役割を果たします。
最終的に、リソグラフィーによって定義された回路形状に応じて、不要な膜が完全に取り除かれ、機能構造を持つ薄膜だけがウェーハ上に残されるというわけです。
まとめ
成膜装置とエッチング装置は、単に「膜を作る」「膜を削る」ための装置ではなく、半導体の機能そのものを形作る極めて高度なプロセス制御装置です。薄膜の種類、膜厚、密着性、エッチング方向性、パターン忠実性など、全てがデバイス性能や歩留まりに直結するため、各工程で求められる精度は極めて高く、多種多様な装置の選択と最適運用が不可欠となります。
特に微細化が進行する現在では、原子レベルの膜厚制御やナノスケールの形状制御が標準要件となっており、それに応えるために成膜・エッチング装置の進化も止むことはありません。これらの装置技術を深く理解することは、プロセス開発、装置設計、材料選定のすべてにおいて極めて重要な要素となるでしょう。