半導体製造の最終段階では、前工程で作り込まれた電子回路を、1つずつのチップとして切り出し、パッケージ化して実用可能な形に仕上げる「後工程」が行われます。この後工程には、ミクロン単位での高精度な切断・接合・封止といった複数のプロセスが含まれ、最終製品の信頼性と性能を左右する極めて重要な領域です。
本稿では、ダイシング、ボンディング(ダイ・ワイヤー)、モールディングという主要工程を取り上げ、それぞれの技術的なポイントと相互の関係性について解説します。
回路から「製品」へと進化する後工程の役割
半導体製造における前工程では、ナノ単位の精密制御のもと、シリコンウェーハ上に複雑な電子回路が積層されていきます。しかし、そこで完成するのはあくまで多数のチップ(ダイ)が集まったひとつのウェーハです。これを最終製品として機能させるには、個々のチップに切り出し、パッケージ化する必要があります。
その作業が行われるのが「後工程」と呼ばれるセクションです。ここでは、ウェーハを物理的に切断し、チップをリードフレームへ搭載し、外部と電気的に接続した上で、樹脂で封止して一体化するまでの一連の工程が実行されます。代表的な工程は「ダイシング」「ボンディング(ダイ・ワイヤー)」「モールディング」の3つです。
ダイシング
後工程の最初のステップとなるのが「ダイシング」です。前工程を経た1枚のウェーハには、数百から数千の回路パターンが並んでいます。これらは1個1個が独立したIC(集積回路)として動作するように設計されており、それぞれを切り離すことで「ダイ」と呼ばれる最小単位のチップとなります。
この切断には「ダイヤモンドブレード」と呼ばれる高硬度の工具が使用されます。ダイヤモンドの微粒子を埋め込んだブレードが高速回転し、ウェーハ上のダイの境界(スクライブライン)を正確にトレースしながら切断していきます。ここで重要なのは、微細な回路に損傷を与えず、かつ切断面にクラックやチッピング(欠け)を生じさせない加工条件を維持することです。プロセスの精度が低ければ、その後の実装や信頼性に大きな影響を与えるため、切削速度、送り速度、冷却条件などが細かく調整されます。
ダイボンディングとワイヤーボンディング
ダイシングによって得られたチップは、次に「ダイボンディング(またはダイアタッチ)」によってリードフレームに固定されます。リードフレームは、チップの搭載と外部回路との接続を担う金属製のフレームで、車載・民生・産業機器問わず、幅広い半導体製品で用いられています。
ダイボンディングでは、エポキシ接着剤や銀ペーストなどを使って、チップをリードフレームの「ダイパッド」部に接着します。ここでは、接着材の均一な塗布と高精度な位置合わせが求められ、加熱硬化や紫外線硬化によって安定した接合が行われます。接着が不十分であれば、後工程で剥離や熱膨張による破損の原因になりかねません。
接着後は「ワイヤーボンディング」によって、チップの電極(パッド)とリードフレームの「インナーリード」端子を極細の金属ワイヤーでつなぎます。通常、金(Au)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)などの材料が使われ、ワイヤー径は20〜30μm程度。電気信号の損失を抑えつつ、チップへの応力も最小限に抑えるため、ワイヤーの長さ、ループ高さ、張力などが精密に管理されます。
モールディング
配線まで完了したチップは、最後に「モールディング」工程を経て、半導体パッケージとして完成します。モールディングとは、チップ全体をエポキシ樹脂で封止することで、物理的な衝撃、湿気、化学腐食、静電気などの外部ストレスから保護する工程です。
使用されるのは、熱硬化性の樹脂が主流で、金型にチップをセットした後、加熱・加圧によってモールド樹脂が注入され、短時間で硬化されます。これにより、外形寸法が規格化された一体型のパッケージが形成されます。モールディングの品質は、製品の長期信頼性や基板実装性に直接関係するため、樹脂の物性、充填挙動、熱収縮、ボイド発生の有無など多くのパラメータが監視されます。
まとめ
後工程は一見すると「機械的」な組み立てに見えますが、その実態は精密な構造形成・接合・保護・信頼性設計が複合的に組み合わさった高度なマイクロアセンブリ技術です。前工程で築かれた回路を、実環境に耐え得る形で“製品化”するためには、微細なチップを正確に扱い、しかも量産条件下で再現性を保つ必要があります。
「小さな箱の中に、巨大な技術の集合体が詰まっている」と言われる半導体パッケージ。その中核を担う後工程は、外から見えないがゆえに過小評価されがちですが、最終製品の性能と信頼性にとって欠かすことのできない工程であることは、間違いありません。