半導体は、単一のプロセスで完成するものではありません。設計された回路をシリコンウェーハ上に構築する「前工程」と、それを個々のチップに切り出しパッケージ化する「後工程」によって、ようやく機能する製品として完成します。
本稿では、ナノレベルの精密加工が求められる前工程の技術構成から、接合・保護・検査を通じて信頼性を確保する後工程の役割、さらには構造・導体の両機能を担うリードフレームの進化に至るまで、半導体製造の根幹を支える2つの工程を包括的に解説します。
回路形成から製品化まで、2段階に分かれる半導体製造
半導体製造は、大きく「前工程」と「後工程」の2つのステージに分かれています。前工程では、シリコンウェーハ上に設計された電子回路を形成するための一連のプロセスが繰り返されます。一方、後工程では、そのウェーハをチップとして切り出し、パッケージ化することで、最終製品として完成させる工程が行われます。
これらの工程は、それぞれが全く異なる設備と技術体系で構成されており、微細化と高集積化が進む中で、ますます高度な精密制御と素材技術が求められています。
前工程|回路を作り込む基盤技術の集約
半導体の性能と信頼性の大半は、実はこの「前工程」の完成度にかかっていると言っても過言ではありません。前工程とは、シリコンウェーハ上にトランジスタや配線層などの電子回路構造を構築していく一連の微細加工工程のことであり、数百にも及ぶプロセスが階層的かつ繰り返し実行されます。
まず、電子デバイスの構造を担う「層」を作るために用いられるのが成膜工程です。これは絶縁膜や導電膜などの材料を原子〜ナノメートルスケールでウェーハ表面に堆積させるプロセスであり、CVD(化学気相成長)、ALD(原子層堆積)、スパッタリングなど、材料や構造に応じて複数の手法が使い分けられます。成膜の均一性や密着性、膜質の制御は後続工程の歩留まりに大きな影響を与えるため、装置内のプロセスガスや温度、圧力制御には極めて高い精度が要求されます。
成膜された薄膜に、回路のパターンを定義するのがリソグラフィー工程です。ここでは、感光性のフォトレジストを塗布し、フォトマスクを通して紫外線やEUV(極端紫外線)を照射することで、ウェーハ上に幾何学的パターンを形成します。露光解像度は波長やNA(開口数)、レジスト性能などに依存しており、極限的な微細化が求められる現代では、リソグラフィー装置と感光材料の両面で技術革新が進んでいます。
パターンが形成されたレジストをマスクとして、薄膜を選択的に削り取るのがエッチング工程です。ここでは、プラズマを利用したドライエッチングが主流であり、異方性・選択性・加工寸法の均一性などが求められます。回路の微細化が進むにつれ、ナノスケールでの加工精度とエッチング残渣の制御が極めて重要となっており、装置メーカーごとのプロセスレシピが競争力の源泉になっています。
トランジスタの導電特性を形成するために欠かせないのが不純物添加工程です。これは、特定の元素(ホウ素やリンなど)をイオン注入装置でウェーハ内に打ち込み、N型・P型半導体領域を作る工程です。注入量・エネルギー・拡散制御の精度が求められ、微細領域への均一なドーピングが技術的課題とされています。
これらの複雑な構造を積層していくためには、下層構造との整合性を維持する必要があり、そのために重要な工程がCMP(化学的機械的平坦化)です。複数層にわたる回路を構築するうえで、わずかな段差が露光や配線接続の障害となるため、各層ごとにナノレベルの平坦性を確保しなければなりません。
これらの工程間には常に洗浄や乾燥、検査といったサポートプロセスが挿入されており、コンタミネーションや粒子付着、欠陥混入のリスクを極小化する設計が求められます。すべてのプロセスはクリーンルーム内で管理され、装置、搬送系、材料供給系が高度に統合されています。
結果として、前工程では1枚のウェーハに対して数百の工程、数週間に及ぶ処理時間、ナノ単位の寸法精度が求められます。その集積された加工技術こそが、最終的なチップ性能、製品品質、ひいては半導体産業全体の競争力の基盤を構成しているのです。
後工程|チップを切り出し、電気的接続と保護を施す
前工程で回路が作り込まれたウェーハは、後工程において実際に使用可能な半導体パッケージへと仕上げられていきます。後工程は大きく「組み立て工程(アセンブリ)」と「検査工程」に分けられ、個々のチップの構造的完成と機能保証を目的としています。
ダイシング|精密切断で1枚のウェーハをチップに分割
最初の工程は、回路が形成されたウェーハを個別のチップ(ダイ)に分割する「ダイシング」です。一般的には、ダイヤモンドブレードを用いたメカニカルソーによる切断が行われますが、微細な回路密度が増すにつれて、レーザーダイシング(LDTS:Laser Dicing by Stealth)などの非接触型技術も活用され始めています。
この工程では、チップのエッジに沿って最小限のダメージで分割する必要があるため、ブレードの厚み、回転数、冷却、送り速度、振動制御など多項目のパラメータ最適化が不可欠です。また、切断面のバリ(欠け)や微細なクラックの発生は後工程での歩留まりに直結するため、高精度かつ高スループットな加工技術が求められます。
ダイボンディング|チップをリードフレームへ固定
ダイシングによって切り出されたチップは、リードフレームまたは基板に正確な位置で接着・固定されます。これが「ダイボンディング」工程です。接着には、エポキシ系接着剤やはんだペースト、銀ペースト、あるいは絶縁性・導電性を持つフィルム材が使われ、熱伝導性や信頼性要件に応じて材料が選定されます。
位置合わせには、高速ビジョンシステムによるアライメント補正が行われ、±数ミクロンの精度で配置されます。熱圧着・紫外線硬化・真空処理などを組み合わせることで、接着強度の確保とプロセス時間の短縮を図ります。
ワイヤーボンディング|電気的接続の実装
次に、ダイとリードフレーム間を極細の金属線(ボンディングワイヤー)で電気的に接続する「ワイヤーボンディング」工程が行われます。主に金(Au)、アルミ(Al)、銅(Cu)などの直径20~30μm前後のワイヤーが使われ、ボールボンディングやウェッジボンディングといった手法が用いられます。
ワイヤーボンディングは、その立体配線形状の制御が重要であり、特にワイヤーループの高さ・張力・ボンディング位置の再現性が電気特性と信頼性に直結します。また、パッケージの小型化が進む中で、マルチボンディングやファインピッチへの対応も課題となっています。
なお、フリップチップやバンプ接続などワイヤーを用いない接続方式(CSP、BGA)も先端パッケージで広がっており、製品設計に応じた多様な実装技術が選ばれるようになっています。
モールディング|チップ全体を封止して保護
ワイヤーボンディング後のチップは、環境的・機械的ダメージから保護するために樹脂で封止(モールディング)されます。エポキシ樹脂などを用いたトランスファーモールディングや、液状樹脂を注入して硬化させるコンプレッションモールディングが代表的です。
封止材は、熱膨張係数・吸湿性・密着性・電気絶縁性など多くの特性が求められ、製品の長期信頼性を左右する要素のひとつです。また、モールディング工程ではリードの反りや応力歪みにも配慮し、機械強度と実装性の最適バランスが設計されます。
検査工程|機能・品質の最終保証
組み立てが完了した後は、製品として出荷可能な品質を備えているかどうかを確認する検査工程が行われます。テストは大きく分けて「電気特性検査」「機能検査」「外観検査」に分類され、プローバーやテスタ、ハンドラ、X線・光学検査装置などが使われます。
歩留まりを最大化しつつ、不良品を確実に排除するため、検査工程ではオートメーション・AI画像処理・データフィードバックの導入が進んでおり、実装工程全体のプロセス制御にも活用されています。
このように、後工程は単なる「組み立て」ではなく、機能的・構造的・環境的に完成された電子部品を構築する極めて重要なプロセス群です。前工程で築いた高精度の回路を、確実に実用性ある形で実装・保護し、品質を保証する——それが後工程の本質であり、最終製品の性能と信頼性を決定づける鍵となっています。
リードフレームは構造材と導体の二重機能を担う要素技術
リードフレームは、半導体後工程におけるアセンブリプロセスの中核部品として、極めて重要な役割を担っています。チップを機械的に固定する基盤としての機能と、電気信号を外部と接続する導体としての機能を兼ね備えるその存在は、単なる部品の枠を超え、パッケージング全体の性能と信頼性に直結する「要素技術」として位置付けられています。
リードフレームは通常、シート状の金属素材からエッチングまたはプレスによって成形され、その構成はダイパッド、インナーリード、アウターリードに大別されます。ダイパッドはチップの固定基板となり、インナーリードはチップ内部との電気的接続点を担い、アウターリードはパッケージ外部とのインターフェースとなる端子部として機能します。それぞれが異なる役割と構造要件を持ち、素材の選定、板厚、表面処理、加工精度などすべてにおいて綿密な設計が求められます。
材料としては、熱伝導性と電気伝導性に優れる銅や、寸法安定性と成形性に優れる鉄ニッケル合金(42アロイ)が用いられます。加えて、酸化防止やはんだ接合性の向上を目的として、Ni/Pd/AuやAgなどの多層メッキが施されるケースもあります。特に車載用途では、はんだのぬれ性、耐熱性、電磁ノイズ耐性などの複合的な要求を満たすため、リードフレームのメッキ構造そのものがパッケージの信頼性を左右する要素となっています。
また、近年のリードフレーム技術では、構造の高密度化と微細化が進んでおり、マルチチップ対応やフルモールドパッケージへの適合も求められています。これに対応するため、インナーリードの形状最適化や、高精度エッチングによるライン幅の微細化、さらにはテーピングやスタンピングといった加工手法の高度化が進行しています。
実装後の信頼性確保もリードフレームの設計で重要な視点です。モールディング後の応力緩和設計、PCBへのリフロー実装時のリードの変形吸収性、熱サイクル環境下での接合信頼性など、後工程や実装工程で発生し得る負荷をあらかじめ想定した設計が、長寿命かつ高信頼な製品の前提条件となっています。
こうした背景から、リードフレームは単なる「機械的支持構造+電気的導体」ではなく、信頼性設計の起点、あるいはパッケージング全体の性能最適化を支えるプラットフォームとも言える存在となっているのです。
市場動向に目を向けると、パッケージングの小型化・高機能化に伴い、リードフレームの製造にはより高い精度と柔軟性が求められるようになっています。例えば、三井ハイテックでは車載用半導体や情報通信機器向けに高密度・高精度のフレームを提供し、2022年には大幅な売上増を記録しています。ローム・メカテックのように金型製造からリードフレーム量産まで一貫して対応し、さらに海外拠点との連携によってコストと供給安定性を両立させている企業もあり、技術と供給の両面での競争力強化が図られています。
今後、パワーデバイスやミリ波帯通信、3Dパッケージなどの応用が拡大するなかで、リードフレームはその仕様と機能のさらなる進化を求められることになります。単なるサポート部品ではなく、最終製品の信頼性・性能・実装性を支える基幹コンポーネントとして、今後もその役割はますます重要性を帯びていくでしょう。
日本メーカーは高精度加工が強み
リードフレーム市場は成熟しているものの、車載用途や高周波用途などで微細・高性能化が進んでおり、引き続き安定した需要が見込まれています。例えば、三井ハイテックは情報通信機器向けや車載半導体向けのリードフレーム受注が好調で、2022年1月期の電子部品部門では約580億円規模の業績を見込んでいます。
また、ローム・メカテックのように、金型の設計・製造・組立まで内製化し、フィリピンやタイといったアジア拠点と連携することで、リードフレームの高精度かつ安定供給を実現している企業も存在します。こうしたサプライチェーンの堅牢性は、トランジスタやダイオードなどの汎用デバイスだけでなく、次世代パワー半導体への対応にも活かされています。
まとめ
半導体製造における前工程と後工程は、役割が明確に異なる一方で、材料・構造・プロセス制御の連続性という観点では密接につながっています。前工程で築き上げた微細回路が、後工程において物理的・電気的に安定した形で実装され、最終製品として社会に送り出されるまでには、無数の精密技術と部材の協調が必要不可欠です。
中でもリードフレームは、単なる部品ではなく、半導体の性能と信頼性を確保する最後の砦とも言える存在であり、今後も素材技術や接続技術の進化に合わせて重要性を増していくでしょう。