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東京エレクトロンの最新動向とその競争力の源泉

東京エレクトロンは、日本を代表する半導体製造装置メーカーとして、世界市場において確固たる地位を築いています。2020年度には、売上高1兆3991億円を達成し、世界市場の約17%を占めました。本記事では、同社の強みと成長戦略、環境対応への取り組みまで、東京エレクトロンの現在地と未来に迫ります。

世界市場シェア17%を誇る圧倒的な売上規模

東京エレクトロンは、世界の半導体製造装置市場において売上シェア約17%を占める、まさに“グローバルメジャー”の地位を確立しています。この数値は単なる一企業の業績ではなく、世界中の半導体ファブが東京エレクトロン製の装置をいかに信頼し、導入しているかを示す強力な証拠です。

その中心にあるのが、成膜(CVD/ALD)装置、エッチング装置、コータ・デベロッパ、洗浄装置、検査装置といった、多様なプロセス分野をカバーする装置ラインアップです。これらはいずれも、半導体製造における“中核工程”を担うものであり、微細化が進むにつれて要求される精度や均一性、スループットに応える高性能な技術が不可欠です。

中でも、成膜およびエッチング工程においては、材料特性を原子層レベルで制御することが求められており、東京エレクトロンの装置はその高度なプロセス技術によって業界をリードしています。微細化が進むロジック半導体や、積層構造が増すメモリ半導体においても、同社の装置が欠かせない存在となっています。

EUV露光装置との連携性も東京エレクトロンの大きな強みです。次世代の露光技術に対応するため、塗布・現像装置の精度と信頼性が格段に要求される中で、同社は**EUV露光用コータ・デベロッパの世界シェア100%**を実現しています。これにより、最先端プロセスにおける装置選定において、東京エレクトロンは“唯一無二”のポジションを占めているのです。

同社の売上が急伸した背景には、世界的な半導体投資の活発化もあります。2020年以降、5G・AI・自動運転・データセンター需要を背景に、台湾TSMC、韓国Samsung、米Intelをはじめとするグローバル半導体メーカーが次々と巨額の設備投資を実行。この波に的確に乗った東京エレクトロンは、グローバルでの納入台数・契約額を飛躍的に伸ばし、売上高1兆円を大きく超える規模へと成長を遂げました。

このように東京エレクトロンの売上シェア17%という数字は、単なるマーケットシェアを超え、製品群の広さ・深さ、先端技術対応力、グローバル営業網の強さ、納入後のサポート体制といった複合的な実力を反映したものだといえます。これは単発的な成功ではなく、数十年にわたる技術革新と信頼構築の積み重ねによる成果なのです。

中期経営計画で掲げた成長目標と投資戦略

東京エレクトロンは、2019年に中期経営計画を上方修正し、2023年度までに「売上高2兆円」「営業利益率30%以上」「ROE30%以上」という明確かつ野心的な成長目標を掲げました。これは単なる数字目標にとどまらず、グローバル半導体市場の急成長と、装置産業における競争環境の激変を見据えた“戦略的布石”ともいえるものです。

この計画の核にあるのが、3年間で約4000億円に及ぶ研究開発投資です。東京エレクトロンはすでに最先端リソグラフィー対応のコータ・デベロッパ装置や、成膜・エッチングなどのコア技術で世界上位に位置していますが、業界のトレンドがEUV露光や3D構造、高アスペクト比対応といった次世代技術へと進むなか、プロセス要件の高度化に追随するための投資が不可欠です。

この研究開発投資は、単なる装置単体の性能向上にとどまりません。むしろ、装置間の連携性、AIを活用したプロセス最適化、材料と装置の協調設計、カーボンニュートラル対応といった、プロセス全体の効率性と品質を飛躍的に向上させる複合的な取り組みに重点が置かれています。

特に注目すべきは、EUV露光に対応する塗布・現像装置の領域です。EUV技術は極めて繊細な光学制御を要するため、露光前後の工程(前工程の塗布と後工程の現像)において極限の精度と均一性が求められます。東京エレクトロンはこの領域で世界シェア100%という独占的ポジションにあり、研究開発を通じてこの優位性をさらに強化する戦略です。

サステナビリティの観点からも同社は積極姿勢を示しており、2030年までに製品使用時のCO₂排出量をウェーハ1枚あたり30%削減、オフィス等での排出量も70%削減という環境目標を掲げています。これも研究開発と並ぶ重点施策の一つであり、顧客ファブの環境負荷軽減に資する装置開発は、今後の差別化要因としてますます重要性を増しています。

人的資本・組織体制への投資も見逃せません。グローバル市場への対応力を高めるため、国内外の開発拠点やカスタマーサポート体制を拡充し、顧客ごとの仕様・課題に応じたカスタマイズ対応力を強化しています。人材採用や育成にも注力し、特にデジタル技術、プロセス制御、材料科学の知見を持つエンジニアの確保が戦略的なテーマとなっています。

つまり、東京エレクトロンの中期経営計画は「単なる事業拡大」ではなく、「次世代半導体製造に必要なエコシステム全体を自社の強みで構築し、グローバル市場での圧倒的な信頼を得る」という狙いに貫かれているのです。その実現のために、財務的な健全性と研究開発のスピード、サステナビリティを軸とする複合戦略が打ち出されている点に、今後の東京エレクトロンの競争優位性が見て取れます。

環境対応にも積極的な姿勢

東京エレクトロンは、最先端の半導体製造装置を手がけるグローバル企業であると同時に、環境課題への対応を中長期的な企業価値向上の柱と位置づけています。特に気候変動対策とエネルギー効率の改善は、同社が積極的に取り組む重要課題であり、装置産業としての責任と競争力を両立させる戦略の一環となっています。

中でも注目されるのが、「2030年に向けたCO₂排出削減目標」です。具体的には、2018年比でウェーハ1枚あたりの製品使用時のCO₂排出量を30%削減し、さらにオフィス・事業所など非製造部門での排出量を70%削減するという数値目標を掲げています。これは単なるCSR活動ではなく、Scope 3(製品使用段階)への直接的な介入という点で、製造装置メーカーとしては先進的な取り組みといえます。

背景には、半導体の微細化と高集積化により、製造工程におけるエネルギー消費量が年々増加しているという産業構造の変化があります。とりわけ、EUV露光技術やドライエッチング工程では、装置の稼働時間・電力・冷却コストが非常に高く、ファブ全体の環境負荷に占める割合も大きくなってきています。こうした実情に応えるべく、東京エレクトロンは装置レベルでの消費電力低減やプロセス中のガス使用量の最適化、廃熱リサイクル設計などを強化し、装置使用時の総CO₂排出削減に努めています。

加えて、製品開発の初期段階からライフサイクルアセスメント(LCA)の観点を導入することで、「製品を売る」だけではなく、「使われるプロセス全体を環境負荷低減の視点で最適化する」という考え方を浸透させています。これにより、装置の設計段階から素材選定、製造、使用、保守、廃棄に至るまで、環境影響を最小限に抑えるための基準が組み込まれるのです。

さらに、サプライチェーン全体にわたる環境対応も進められています。調達先にも環境基準を設定し、サステナブル調達ガイドラインに沿ったエネルギー使用・廃棄物管理・化学物質管理などの遵守を求めています。また、再生可能エネルギーの導入拡大や、環境投資枠の増加、グリーン製品認証制度の社内適用など、環境に配慮した経営体制の強化も目指しています。

このように、東京エレクトロンの環境対応は「企業としての責任」にとどまらず、顧客から選ばれるための“装置競争力の一部”として機能している点が大きな特徴です。環境性能の高さは、半導体ファブのESG評価やカーボンフットプリント管理の文脈でますます重視されており、東京エレクトロンのように環境性能と装置性能を両立させる企業こそが、今後の市場での信頼と支持を得る存在になるといえるでしょう。

まとめ

東京エレクトロンは、装置開発力、供給体制、顧客対応力のすべてにおいて、グローバル基準の競争力を有しています。微細化の限界に挑むEUV露光対応や、環境への配慮を組み込んだ製品開発など、業界の最前線を走り続ける存在です。

日本企業の強みを世界市場で活かす好例として、今後も注目される企業であることは間違いありません。

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